山崎の不運な一日

乗りかかった沈没船

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なんでよりによって、このタイミングでこんな場所に沖田が来てしまうのかと、山崎の額は汗でびっしょり。

「丁度いいアル、この際あいつにはっきりと言ってくるヨ」
「だだだめですっ、だめです、だめですっ」
机につっぷしたままで、二人の小声での会話。

席のみっつ隣ほどした所に、沖田が腰をかけたのが分かった。

もうすでに平常心でいられない山崎。見つかったら殺される。見つからなくても殺される。
机に、冷や汗が流れるのを、必死で拭うと、神楽に声をかける。
「とりあえず、ここを出ましょう」
「なんでアル、さらりと終わらすネ」
「ダメです! ここじゃ迷惑になりますよ!」
さらりとなんて終わらせてなるものか、このままでは自分の命が危うい。
山崎は、血眼にして、神楽を制止する。
そんな様子に、神楽は考える素振りを見せた。しばらくして納得した神楽は、沖田の席から遠まわりで腰をさげて這っていく山崎の後を、追いかけた。
「ガシャンっ」
ヒッと息を飲み込んだのは山崎。店員が神楽の体につまづいて食器を落としてしまった。
「すいませんっ」

店員は慌てて神楽に謝っていた。
「私こそごめんなさいアル」
ご丁寧に頭をさげる神楽の手を、ぐんっとひいたと思えば、山崎の手によって店からあっという間に姿を消した。


(ドク、ドク、ドク、ドクっっ!)


結局公園に戻ってきてしまった二人。
心臓に手をあて、ひとまず動いているのを山崎は確認する。
激しく脈打ってはいるけれど、とりあえず大丈夫だと額の汗を拭った。


「と、とりあえず、もう一日、考えましょう」
山崎の言葉に、神楽はあきらかに嫌だとの表情を表した。
「こんな問題は早く解決した方がスッキリするアル」
「駄目、駄目、駄目、駄目~~~!!!」
明日になれば考えも変わるはず、いや変わってもらわなければ困る。山崎は目を真っ赤にしながら、神楽に訴えた。
山崎の顔がよほどだったのか、そのただならぬ気迫に負けたのか、神楽は観念したように、公園から姿をけした。

小さくなっていく背中を見ながら、それがとうとう見えなくなると、はじめて山崎は呼吸を吹き返した。
すると、どっと汗が背中からふきだしてくる。

(じょ、冗談じゃないよ・・・・・・)
なんでこんな重大な秘密を神楽と二人で分かち合うハメになってしまったのか、激しく後悔するけれど時すでに遅し。
頭を、がしがしと掻きながらなんとかしようと策を練ってはみるけれど、何も考えは浮かばなかった。
いったい、何が原因か、さっぱり分からない。
男と女の関係なんて、目に見えない所でぐちゃぐちゃに絡まっているのか? 
仲直りさせる方法は? そもそもどっちに原因が?

頭をかきむしる山崎の思考はパンク状態。
けれどもこの問題は、もうすでに起こされてしまった後であって、引くにも引けない。


「おい」
(あーでも、沖田隊長、変に感が鋭いから、すでにチャイナさんの気持ちに気づいて・・・・・・)
「おい」
(もしかしたらチャイナさんに、想い人でも? だって沖田隊長、性格悪いから・・・・・・)
「おい」
(なんだかんだ言っても沖田隊長モテるし、チャイナさんが嫉妬とかしちゃって・・・・・)
「山崎」
「うっさいなーもう! 俺は今、人生の大事な選択しに直面して・・・・・・ひっっっっ!!!」

振り返った頭をもう一度、前に戻すと、一歩山崎の脚は踏みだそうとする。
けれどその頭は既に沖田の掌のなか。額には、今日一番の汗の量がびっしょりと流れている。
すこしでも動こうとすれば、みしみしと音をたてる脳天に、山崎は、いまにも泡をふきそうだった。

「ちょっくら、顔かしてくれや、山崎」
沖田の顔は笑っている、なのにそれが余計にこわい。
「はい・・・・・・」
蚊をつぶしたような情けない声をだしながら、山崎は沖田の鎖につれられて公園から姿を消した。



山崎が屯所の館内からでてきた時には身も心もボロボロだった。
ありがたい稽古をつけてもらってやろうとのそれは、もはやいじめ以外の何ものでもなく、体のあちらこちらが痛い。
今にも倒れそうになりながらも部屋へと戻るなり、本日何度目か、心臓が止まる音をきいた。

「チャ、チャイナさっ!!!」
もごっと、口を小さな掌で塞がれたその目の前には神楽。
「しーっ、静かにするアル」
顔の目の前にある、神楽の顔との距離は近い。こんな所を沖田にでも見られてしまったら、今度こそ殺される。
そうじゃなくても、ここにいた事がバレてしまえば、どちらにせよ無事ではすまない。

沖田の部屋に忍び込むならともかく、何がどうしてこの部屋にくるのか、どう考えても答えは出てこない。

だからさっさとこの手を離してくれ、そう思うのに神楽の顔はさっきよりいっそう近くなった。
夜兎のちからで塞がれた山崎は、どんどんと酸素をくわれていく。ほんの数時間前に沖田によって生命の危機にたたされていたけれど、今度は神楽の手によってその生命線をきられようとしていた。

既の所でようやく神楽の手から逃れた山崎の眼球は血走っていた。
そこらへんにある酸素を食い尽くさんばかりに息を吸い込む山崎。

「沖田に何か言われたアルカ?」
「えっ?」
まだ目尻りに涙が残っている山崎に神楽の視線はまっすぐに問いをつきつける。
「何かって・・・・・・」

思い出すけれど、沖田の口から神楽の名前は聞かなかった。
ほとんど一方的に攻撃されたというか、もはやあれは八つ当たり以外の何者でもない。
けれどもともと沖田は自分の事をペラペラとしゃべるような、おしゃべりではない。
嬉しい事も、悲しい事も、つねに自分の中で囲っている。
そんな中、唯一その感情を顕にするのが、この目の前の女。

二人の間に何があったのかなんて、分かるはずもない。なのに・・・・・・。

「よしっ! 分かったアル」
両手をポンと叩き、いかにも何か思いついたような素振りを見せた神楽。
「な、何が分かったんですか?」
沖田にして、この神楽だ。頭の中を想像してみても悪夢しか見えない気がする。
「乗りかかった船アル、お前にも協力してもらうヨ」
「へっ・・・・・・?」
乗りたくもない沈没船にのらされたのに、いかにも助けてやろう感を醸し出す神楽に、山崎の声は、儚く散って消えそうだ。
なのに、それをこれっぽっちも分かってくれない神楽は、山崎の右手を力いっぱいに引きあげた。

・・・・To Be Continued・・・・・



  



Category: 山崎の不運な一日。
Published on: Thu,  06 2015 13:31
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