彼氏 卒業編 10

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↓↓↓↓↓↓↓↓ 一室の事務所の奥にある机には、書類がちりばめられている。パソコンの側に置いてある飲みかけのコーヒーを、小さな台所に片付けていると、ガチャリとドアが空く音がした。
その見知った顔に、さっそく憎まれ口を叩く。

「鍵の閉め方も忘れたんですかィ、土方さん」

「オメーこそ、何してんだ」
沖田がここに来る事は珍しくもなんともないらしく、ソファに腰をおろし、タバコに火をつけた。

「別に、ただちょいと時間を持て余したんで」
慣れた手つきで、カップにコーヒーを入れると、当たり前の様に土方の向かい側に腰を落ち着けた。
「相変わらず忙しそうでさァ」
土方が置いた書類の山の中の数枚を手にとって見下ろす。
それを真剣に見始める沖田の様子を土方は見ている。その口から出てくる意見を待っているようにも見えた。

「総悟」
二人して、声がした方を振り向くと、そこには近藤がいた。
土方の時と同じく、この場所に沖田がいる事に驚いている様子はない。
ソファにカバンを置くと、奥のキッチンにいき、蛇口をひねるとコップに水を注ぎ、そのまま喉に流し込んだ。

大学の専攻で経営学を学んでいる沖田は、ちょくちょく、近藤に事務所に顔を出しては、二人の仕事を手伝っている。
近藤が腰を下ろすと同時、さっそく沖田が仕事に対しての意見を言い始めた。
その意見を当然のように聞き入れる近藤。

近藤と土方と交えて、40分ほど話に没頭していただろうか、沖田の背中に声がかかった。


「あれ? 沖田さん来てたんスか?」
事務所の訪問者はまた子だった。
沖田をみかけるのはちょくちょくある様子で、中に入ってくると、カバンの中から慣れた手つきで書類を差し出した。
「また、あいつのつかいですかィ?」
また子が手にしているのは、高杉の会社から託された書類だ。
近藤の会社とは、取引先になっていて、ここに来る事を面倒だとする高杉から、ちょくちょくお使いにまわされるまた子の姿は珍しくもなんともない。

「そうッス」
高杉に使われている事さえ、喜んでいるスーパーポジティブなまた子は、胸をふんぞりかえり得意げに頷いた。
それを呆れ、哀れに思いながらも、土方は、また子からそれを受け取る。

「神楽ちゃんは?」
この事務所に神楽が来ることはそうそうない。
また子は、神楽の近況を聞いたのだろうと察した沖田は書類に目を通しながら返答する。
「バイトでさァ」
納得した様子で、頷くまた子。
「あそこのコンビニの人って、先生に似てるッスよ」
ただの話のネタにと発した言葉が、一瞬だけど沖田の手を止めたのを、また子は見逃さなかった。
「ふーん、沖田さん、ふーん」
からかいのネタを一瞬で勝ち取ったとばかりのまた子の目には、悪魔がケラケラと浮かんでいる。
卒業してからも、あのクルクル天パーの面影を気にするのは健在していると知っているまた子は、唯一沖田をからかえる手段だと知っている。それは長い間、意地悪な皮肉を沖田に言ってきた高杉を見てきたから。

そんなまた子の顔面に、書類をバサっと軽く当てる沖田。
「これ持って、サッサと帰ってくだせェ」
受け取った書類は、きちんとカバンにしまうけれど、まさか帰るものかと言わんばかりにまた子は沖田の隣に腰を下ろす。
もうすでに、仕事の話は出来まいとする土方は、もう好きにしてくれと、腰をあげ台所にと向かっている。

「沖田さん、最近神楽ちゃんと、どうなんッスか?」
あれだけ、沖田への悩みを相談されたのだ、聞く権利はあるだろうと問いかける。
「別に、普通でさァ」
沖田がベラベラと神楽との事を話さないのは想定済み。
「そんな余裕ぶっちゃってー、イケメン店員にとられてもしらないッスよ」
動じない沖田をからかってやろうとけし掛けたはずなのに、沖田からの冷ややかな視線に、余裕どころか、まったくそれがなさそうだと見えてしまい、思わず地雷を踏んでしまったまた子は思わず喉をならした。

(まったく、この二人は、一年経っても何も変わってないッス)
天邪鬼な神楽に、この沖田。周囲を振り回すだけ振り回して、いつもいつの間にか落ち着くべきところに落ち着いている。
だからほっておけばいいけれど、嫌でも神楽から話が舞い込んできては振り回される。

こんな沖田の様子を神楽が知ってか知らずかは分からないけれど、どう見たって、神楽しか見えていない。
世の女がいくら群がろうとも、この男の視界の中には、たった一人の女しか見えてないのに……。
ため息しか出てこないまた子。

けれど、一年前に会った出来事から、もう一年も経ったのだと思う。
悪夢の様な出来事から、もう一年……。

それでも、前と変わらず、前よりまして神楽の事を思ってくれている沖田の事は、また子にとっても大切な人。

「さあ、うちはそろそろ帰るッス」
そう言うと、また子は、書類の入ったカバンを持ち立ち上がった。
台風の如く来ては、風のように去っていくまた子を見送ると、ヤレヤレと再び仕事の時間に切り替えた。

近藤の事務所を出る頃には、丁度神楽のバイトも終わるくらいの時間になっていた。
コンビニの外から、神楽を確認すると、丁度こちらを振り向き、手を振った。
時計の針が10時を指したとの同時、神楽は、裏口から出てきた。

一目もはばからず、ぎゅっと抱きついてくると、頬をスリスリとさせた。

「あったかいアル」
神楽の言葉に、自然と笑みがこぼれる沖田
「そうかィ」
「そうアル」
ひっしと沖田にしがみついたまま歩きはじめる。
バイトが終わったはいいけれど、もうすでに時計は10時を回っている。

「この後、どうするアルカ?」
急なバイトで、お腹も減ってるだろうと予想していた沖田は、近くのファミレスに入ろうと言った。
二言返事で承諾した神楽と二人、店内へと入っていった。

「何処で時間潰してたアル」
「あー、近藤さんの事務所に行ってた」
聞きながら、神楽は目の前にあるアメリカンサンドを口いっぱいにほうばる。
「ゴリの?」
沖田が近藤の事務所に出入りしている事は知っているが、何をしているかよく分かっていない。
一度、説明してもらったけれど、なんだか自分には難しい話で、とりあえず手伝いに行っているくらいの認識程度。


「明日は、朝から授業あるノ?」
「いや、昼からでも大丈夫」
「ふーん」
何の変哲もない会話。そこに神楽の控えめな思いがあるけれど、沖田を目の前にして言えるわけもない。

沖田は沖田で、神楽との旅行は、つい先日の事。一線を越えたとはいえ、まだ神楽の中で、考えるものもあるだろうし、泊まらせておいて、手を出さないと約束ができない。

そんな二人の思いは声に出す事ないまま交差しながら、ファミレスを出た。
時計の針は、零時へと近づいている。
沖田は大通りの道に出ると、タクシーを止めた。

「もう遅いから、帰りなせェ」
横で、乗り込むのを待っているタクシーを目の前にして、神楽は、沖田の言葉に頷かない。
ちいさく、神楽の言葉が出されたけど沖田には聞こえない。
「ほら」
待っているタクシーにも悪いと思ったのか、神楽の手をつかんだ沖田は促した。
けれど神楽の体はかたくなに動かなかった。

そんな神楽の様子を目の前にした沖田は、ドライバーに声をかける
「すいやせん」
断りの声を聞いたドライバーは、ドアを閉め、去っていった。
沖田は、どうしたものかと、項(うなじ)を掻いたけれど、神楽の手は、沖田の服をつかみ、離そうとしない。
しばらく考えるそぶりをみせた沖田だったが、その手をとり、つなぎなおした。

沖田の中で、色んな葛藤があったのか、長いため息がでた。
その後、踏み出した足に、やっと神楽は口を開いた。

「何処行くアルカ」
返答しだいでは、この場から動かないと言っているそぶりを見せる。
沖田は、諦めたように、口を開いた。
「俺んち」


真っ暗な部屋に明かりが灯ると、神楽は上着を脱いだ。

慣れた様子で、エアコンをつけると、台所に行きながら、沖田に声をかける。
「何かあったかいもの飲むアルカ?」
まるで自分のうちの様に言う神楽に、沖田は慣れた様子で返答した。

テーブルの上に、温かいコーヒーとミルクを置いた神楽は、クッションを取り、リモコンを手に、くつろぐそぶりをみせた。

録画しておいたテレビを見ながら、神楽は、ケラケラと笑う。

沖田がコーヒーに口をつけながら、神楽の側で同じようにテレビを見る。
こんな光景は、めずらしくもなんともなく、ここ一年の間で、何度も繰り越された光景。
しばらくすると、腰をあげた沖田が脱衣所に向かうと、そのまま浴室に入ったのが分かった。

さっきまで、ケラケラ笑っていた神楽の声が、急にシンとなくなった。
本当はテレビの内容なんて、頭の中に入ってなんかきてない。

あったかいミルクだって、何度も口をつけてとっくになくなってる。
それでも喉がカラカラなのは、この部屋に入ってからずっと、緊張しているからだ。

また子に何度も相談して、一年間ずっと前に進めなかった思いが、やっと前に進めたのはついこの間の事。
今でも目を閉じたら鮮明に思いだしてしまう。耳をふさいでも、沖田の声が鼓膜を刺激する。
この部屋に来るということが、そう言うことだと分かっているから緊張した。

「神楽」
沖田の声に、ハッと意識を戻す。
浴室から出てきた沖田の姿が目に入る。
「あ、ごめん。今入るアル」
まるで頭の中を見られてしまったかの様な神楽の様子。火照った顔を見られたくないと、沖田の横を通りすぎる。
今にも暴れだしそうな心臓の音が、沖田にバレないかと、気が気じゃなかった。

浴室のドアをしめる音が聞こえると同時、沖田は、腰を下ろした。

神楽が分かっているか、分かっていないかは別として、一度線を飛び越えてしまうと、これまでとは勝手がちがう。
一年通してやっと神楽に触れてもかまわないところまできた。
長い間、罰を受けていて、あの夜、それを許された気がした。
箍が外れたわけじゃないけれど、それをもう一度手放す気にはなれなかった。

(でも……)
やっぱりあのまま帰しとけばよかったとの思いが一瞬脳裏に過ぎったけれど、あのまま神楽を帰して後悔するのは考えなくても分かる。

神楽が浴室から出てくると、さっきまであったカップは片付けられていて、その代わりに大学の課題をしている沖田がいた。
沖田が部屋で課題をしている事はよくみる光景。
少しホッとした神楽は、沖田の隣に座ろうとした。

「もう遅いから、お前は寝ろィ」
座る前にけん制されてしまった。でも確かに時計を見てみると、納得できる時間に神楽は言い返すことができずに、そのまま寝室へと入って行った。
その姿を見送った沖田は、息をつき、しばらく机に向かう事にした。

ペンを持つ手をブラブラとした沖田は、時計を見た。首の関節をならし、立ち上がる。
机の上をそのままにしたまま、部屋の電気を切ると、寝室にと向かった。

寝室の明かりを灯すことなく、ベットにもぐりこんだ。

やっと一息つけた沖田の背に、ピタリと神楽の体がくっついてきたと思ったら、そのまま前に手を回された。
まさかと思った。
(まだ、起きてやがったのか)

ぎゅっと回される手の感触が、神楽の寝相の悪さのせいかどうかなんて、分かる。だから、沖田は、一瞬理性がグラつく思いがした。

背中にピタリとくっついた神楽の顔。そこに、息が吹きかけられる。
「冬場のシャワーは……寒いアル」
小さな声で発せられたそれは、今日の神楽の懇親の一撃。

その言葉を聞いた沖田が、動こうとするのを察したのか、前に回された手が緩んだ。
沖田が神楽の方へと向くと、恥ずかしさに耐えられなかった神楽は、瞼を閉じていた。

その頬にそっと触れてみる。すると、まつげが揺れた。

緊張でかたくなっている体を、ほぐすかのように、ゆっくりと沖田は、熱を重ねた。



・・・・To Be Continued・・・・・
Category: 彼氏 卒業編
Published on: Tue,  20 2016 13:29
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