彼氏 卒業編 11

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また子の一日は、バイトから始まる。そして昼すぎに終わると同時、高杉の事務所に行くことが多い。
頼まれていないけれど、高杉のコーヒーを入れたり、掃除をしたり、近くのコンビニに買い物にいったり、近藤の事務所につかいにいったり……。はじめの頃は、まともな職につけと言われはしたが、もう一年近くもこんな生活を続けていれば、それなりの形になりつつある。

この日も高杉に、コピー機が壊れたと言われたので、近くのコンビニまでつかわされたまた子は、印刷される音を聞きながら雑誌を読んでいた。
読んでいる合間に窓の外を見てみれば、この寒い季節の中、少しでもあったまろうとくっつきながら歩くカップルが見える。そんな光景をみるのも、もう慣れてしまったけれど、うらやましいことに変わりはない。
高杉が甘やかしてくれないのは、今に始まった事じゃないけれど、声にならないため息をもらす。

いつの間にかコピーが終わっている事に気づくと、また子は、束になった書類を持ち、コンビニから出た。
前から並んであるいてくる男の姿。でかい図体が道いっぱいに広がっているため、また子は、その隙間をぬうように男たちの中を通りすぎようと思った。
「何スか」
また子は低い声色をだした。

高杉の事務所までは、ここからそんなに遠くはない。
けれどそれを邪魔するように、男達はまた子の前をふさぐように立ちふさがった。
「邪魔ッスよ」
関わりたくないのか、また子の声には苛立ちがみえた。そんな様子を男達は、せせら笑いをしながら見聞きしている。

この感じ……、また子に嫌な感じを思い出させた。
薄暗い廃墟。群がる男の声と息遣い。また子の背中がひやっと凍りついたような感触がおそった。
息を飲み込み、喉をならしたけれどまた子は真顔だった。少しでも表情を変えると男達の思うつぼだ。そう再び通り抜けようとした。
けれどその道は開くことはなかった。その足が、静かに後ずさりする。
後ろに逃げようかと一瞬考えたけれど、この人数に勝てる未来が見えない。瞬きすると、あの時の感触が蘇り、脳天がぐらりとかたむくような気持ち悪さに襲われた。

男達は、まるで面白いオモチャを見つけた様に、白い歯をのぞかせている。
心拍は上昇し、張り裂けそうで息をするのも苦しくなった。
逃げ出したいけれどもう逃げる足を持っていない、たまらずまた子は男に背中をみせ、己を守るようにその場にしゃがみこんだ。

何も聞きたくない、誰にも触られたくない。ぎゅっと抱きしめる両手は、恐怖で震えた。ちいさくなるまた子のすぐ側で男達の声が聞こえる。
目を閉じるまた子から、書類の束が落ちたと思ったら、その両の耳を塞いだ。

また子の影に男の影が伸びる。
その瞬間だった。勢いよく後ろに引かれたと思った男の一人の体が後方へ飛んだ。
その異変に気づいた複数の男が振り向いたとき、顔面に強烈な痛みが襲った。鼻血が吹き出す中、目の前に現れた男の姿が瞳にしっかりと映った。

「お……前は……っっ」
締つけられている首元のせいで、上手く声がでてこない。
驚いているのか恐怖しているのか、けれどしっかりとその瞳に映し出される男。
ほんの一年前まで、この辺り一帯しきっていた男がいた。

「たか……すぎ……」
更に強くなる力に、声どころか息さえも出来なくなって、その手を離そうと試みるけれど、その力は全く微動だにしない。
降参だというように、手を叩いてくる男。すると低い声が鼓膜にとどいた。

「失せろ」
やっと解放された男は、大きく息を吸い込み酸素を取り込んだ。酸欠状態で脳がクラクラして足元がおぼつかない。
まっすぐに歩く事さえできずに、体勢をくずし、コンクリートの上に転がる。それでもこの場から一刻も早く逃げ出したいのか、そのふらふらになる体をふるいたたせ、逃げ去っていった。

何事もなかったような静寂が訪れたころ、高杉は、また子の肩にそっと手をやった。
知っている感触に、ようやく振り向いたまた子は、高杉の姿を見て安心したように抱きついた。
バラバラになってしまった書類の束を広い集めると、高杉は、また子を連れて帰った。

また子のサイズには十分な余裕をもつソファに腰を落ち着かせると、テーブルの上に、カフェオレが置かれた。
それを一口ふくみながら時計の針を見てみると、10時半過ぎを指していた。
「もう少し、此処に居ていいッスか?」
あんな事があったばかりで、さすがに一人で外を歩く勇気はないけれど、忙しい高杉に送って欲しいとはいいたくない。
高杉は、また子の方を見たけれど、その問いには応えてくれなかった。

デスクに戻った高杉が再び仕事をしはじめて一時間が経った頃、ようやく仕事のキリがついた様で、その腰をあげた。
ソファに座っていたまた子は、その身を倒して熟睡している。
高杉は、来ていたジャケットを脱ぐとまた子に被せた。
事務所の電気を消した暗闇の中、また子をゆっくりと抱き上げた。

高杉の部屋にあるベットの上のまた子は、高杉が浴室から出てきてもその目を覚ますことはなく眠り続けている。
バイトをしていたまた子が、自分の仕事を手伝いたいと言ってきた時、正直また子のバイタリティなら可能だろう思った。
それと同時に、なかなか時間のとれない環境が、そうさせたのだろうとも考えた。

けれど一番に頭を過ぎり、それを承諾したのは、自分の目に見える場所にまた子を置いておきたいと思ったからだった。
もう守れなかったなんて思うのは御免だ、そう感じたからだ。

仕事を手伝いたいと言うまた子に、近藤の事務所の仕事を割り振って手伝わしているのも、そこなら、確実に安全な場所だと言えるからだった。その証拠に、また子が事務所に来たときも、帰るときも、出て行ったほんの何分後かには、何も言わずとも、ちゃんと連絡が来る。
そんな生活の中でも、今日の様に降りかかってくる出来事から、守れたとき、高杉は、知らずと息をついている。
また子の頬をそっと触ると、温かい感触が手に触れた。それはいつもと変わらずの温度だった。


深夜、二時……。
深い眠りについてはずのまた子の瞼がピクリと動く。
額には、冷や汗が浮かび上がる。消えそうなうめき声が微かにまた子の口元から零れた。
次の瞬間、息を吸い込んだまた子の瞳が、大きく開いた。
静かに音を立てていた心臓の音は、激しく動機している。落ち着かせるように何度か息をついた頃、辺りを視線で見渡した。
(ここは……)
暗闇だけれど、すぐ近くに高杉がいるのは分かった。
久しぶりに、見たあの夢。男達に囲まれ、なすすべもなかった自分。もうしばらく見なかったのに、今日の出来事がほったんになって、引き戻された。
先が見えないくらやみの中で出口も分からず走り続けている中、手を伸ばしてくる男達から必死に逃げる自分……。

「大丈夫だ」
すぐ、上で、声がした。
(晋介様……)
見上げるまた子。瞼は閉じているけれど、今確かに高杉はそう言った。
ゆっくりと頷くと、また子は、ぎゅっと高杉の腰に手をまわした。

それでようやく気がついた。自分が寝ている間、ずっと抱きしめていてくれたのだと。
頭の下にある腕も、包み込むように、抱いているその体も、寝ている間、ずっとこうしていてくれていたのだと。

いつからこうしてくれていたのだろう。もしかして、ずっと起きていたんだろうか?
温もりにつつまれながら、そんな事を思った。
いつ起きるかもしれないし、起きないかもしれない。悪い夢なんて見ないかもしれない。けれどずっとこうしていてくれていたんだと思った。忙しかったはずなのに、もしかしたら訪れるこの瞬間から守るために……。

高杉は、決して自分を甘やかしたりしない。
なかなか甘えさせてくれることもない。

でも、いつだって見えない所で守ってくれる。それはとても分かりずらくて、きっと知らない事も沢山あるんだろう。
けれどこれが、この人の優しさであり、守り方なんだと……。
そしてそんな人に自分は守られていて、いつだって、笑う事が出来るんだと……。

また子は、高杉に身を寄せると、ゆっくりと瞼を閉じた。
もう、悪い夢はみない様な気がした。

朝日が覗く頃、また子は、キッチンに居た。
わけの分からない鼻歌をうたいながら、フライパンにある目玉焼きを、二人分皿の上に乗せた。
仕掛けておいた、パンが、トースターから勢いよく飛び出ると、カップに高杉の分のコーヒーを注ぎいれた。

寝室のドアをあけると、ベットに腰掛け、声をあげた。

「晋介様!! 朝ッス」

剥ぎ取られようとする布団の中から、高杉の機嫌の悪い声がした。

「殺すぞ」

・・・To Be Continued・・・・・
Category: 彼氏 卒業編
Published on: Sat,  07 2017 08:14
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