彼氏 卒業編 25

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イラスト 菌うさぎ



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雪が積もった光景を見ながら、ファミレスの窓を見ている神楽の目の前には、ガトーショコラが一口欠けた状態で置かれている。神楽はこの場所で待ち合わせをしていた。その手のなかにはこのファミレスに来た時からずっと、一枚の封筒が握られている。

「神楽ちゃん」
待ち合わせの場所にたった今到着したのはお妙だった。お妙は腰を落ち着かせながら遅れてしまった事を詫びるように言葉をつづけた。
「ごめんなさいね。雪のせいで思うように動けなくて」
「ううん、全然待ってないアル」
急にお妙を呼び出したのは神楽の方だった。だから謝るとすればこんな雪の降る空の下を歩かせた自分の方だと思った。
お妙はここに来るまでの間に降り積もったコートの雪を軽くはらってからコートをぬいだ。そしてその流れのままお妙はメニューを見始めると、ホットココアに指をトントンと置いたあと、呼び出しベルをならした。

「で、何かあったの?」
神楽に相談を持ちかけられる事はよくある事だ。けれどどちらかと言うと比較的よくいるまた子を呼びつけてもよかっただろうに、どうして今日は自分なのかを不思議に思っている気持ちもあった。
別に、ただ単に一緒にお茶をしたかったのか、それともまた子じゃ手に負えない案件を引っさげてくるか……。
そんな事をお妙は胸のなかで思っていると、向かい席に座っている神楽がおずおずと手のなかにある封筒をお妙の目の前に差し出した。
「なあに?」
一見質素な封筒、神楽から出されたアイテムにお妙には検討も付かない。そう思いながらも封筒に手を伸ばした。

人の手紙を好んで拝借する趣味はないけれど、神楽の瞳は開けてほしいと言っている。
ふと、お妙の思考に浮かび上がった考えがあった。神楽は高校の時に一度危険な目にあっている。それを思うとお妙の瞳は真剣になり、一度息を吸い込む姿勢を見せた後、意を決したように封筒のなかを開いた。

「――どうしようアル」
困りきった神楽の表情と手紙を見比べるお妙。
「これって、ラブレター?」
聞かずとも分かっているけれど、思わずお妙が口にすると応えるように神楽はうんとうなずいた。危ういものではなくほっとした反面、封筒の中身に正直お妙は拍子抜けしてしまった。お妙は神楽の方をちらりと見て観察をしてみた。その瞳はどうみても困っているように見えた。

手紙のなかには、神楽への思いと日時と場所が記されている。正真正銘のラブレターで間違いないようだった。普通に考えればこんな事はよくある事であって、神楽の相手、沖田とでもあれば気にもとめない事であろうと思う。けれど高校の時から神楽の隣にはつねに沖田総悟と言う存在があった。高校を卒業しても神楽の側に寄ってくる男を見つけたともんならばすぐに沖田が排除していたであろう。

そんな神楽に、迷い込んだラブレターの存在は神楽の中で珍しいものであることには間違いなかった。
神楽の話からすると、どうやらいつもの様にコンビニでバイトをした終わり、店から出た瞬間に声をかけられたと言う。おそらく普段働いている神楽に惚れてしまったのだろう。神楽の容姿を考えれば、別に何もおかしくない事だった。いつもは当たり前のように隣に沖田がいるけれど、最近は沖田の方が忙しくて、二人でいる時間もなかなかない。そんな状態の中でこうなってしまった状況に、神楽は困惑しているのだ。

心配していた事柄じゃなかったと安堵するも、どうしたもんかと息をついた。
「これって、沖田さんには――」
お妙の言葉に、神楽は無言で首を振った。
神楽の状況と今日の呼び出しの事を考えれば、おおよその見当は神楽の答えをきくまでもなく分かってはいたお妙。神楽には言うまいが、お妙の中でぐるぐると空論がまわりはじめた。

「そうね……」
まだ自分自身の中から答えが導き出されない状況だけれど、お妙の口からはそんな言葉が思わず零れた。


お妙に相談をしたあの日から一週間、神楽はいつもの様にコンビニでバイトを全うしていた。
あの日、お妙が出した答えは、沖田に知らせることなく速やかに、待ち合わせの日時である今日を過ごす事だった。
たな卸しをしながら掛け時計に目をやると、待ち合わせの場所まであと一時間と言うところだった。

告白をされた事がないなんて言わないけれど、それでも沖田と出会ってからはそんな機会も遠くはなれていた神楽は、どうやって告白の場を過ごすべきか一生懸命に考えていた。告白の返事は勿論NOだが、出来ることなら相手を傷つけずに終わらせたい。神楽がそう思ってしまうのは、両思いになれた今でさえ、こんなにも沖田総悟と言う男に翻弄されながらも恋焦がれている気持ちを十分に知っているからだ。

出てくる答えは、決まっているのに、言葉選びに翻弄され神楽の頭の中は混乱すんぜんになりつつあった。

「よう」
そんな時、神楽の背後に声がかかった。驚き振り返りながらも聞き覚えのある声だと途中で気がついた神楽。
「トッシー」
神楽の目の前には土方がいた。
「何してるアル」
何気なく口にしたけれど、土方がこのコンビにに来ることは珍しい。しっかりとしたスーツを来ているところを見ると仕事の商談中なのか、行きがけなのかと想像はついた。
「真面目に仕事してんじゃねえか」
棚卸しをしている神楽の様子を目にした土方は意外そうにそう声をかけた。
「当たり前アル、私を誰だと思ってるネ」
神楽の様子を見た土方は、分からないくらいの軽い笑みを見せたあと口を開いた。
「そうかい、タバコくれや」
土方の言葉に促されるようにレジの方へと向かった神楽は、土方の愛用しているタバコを手にとった。
「あんまり吸ってると、肺ガンになってポックリいってしまうアル」
皮肉じみた神楽の言葉を褒め言葉のように受け取ったのか、土方は笑いながらそれを受け取った。土方はそのまま神楽に背をむけるとありがとうとでも言うように手をあげ去っていった。珍しい事もあるもんだと思いながら神楽はそれを見送った。


「神楽ちゃーん」
神楽は再び棚卸しを再開させまもなく、ハイテンションの声が店の中へ響き渡った。
羅列している棚でまだ姿形が見えないけれど、その声を聞いた神楽はすぐにまた子だと分かった。
奥の方からひょっこり顔を出した神楽の姿を確認したまた子が、かけよってきた。
土方とは違って、また子がここに顔を出す事は珍しくはないけれど、二人続けてという偶然に内心神楽は驚いていた。
「どうしたアル」
似たり寄ったりの言葉をついさっき土方に言ったばかりだが、また子にも神楽はそう問いかけた。
「晋介様がめずらしく、どこかに連れてってくれるって言うから、待ち合わせをココにしたッスよ」
どうりで……、また子のハイテンションの意味が分かったとばかりに相槌を打ったあと、また子は、ドリンクを差し出し会計を済ませた。イートインスペースに腰を下ろすまた子に、今回の一件を相談すべきだろうかと一瞬思った。なんせ決戦は今日のあと少し後の事。思いながらも口を開くが、すぐに神楽は閉じた。

また子の性格を考えると、大騒ぎになるのは目に見えていた。
相談したのがお妙だったからこそ、静かに時は流れている。そうしなくても、高杉との久しぶりのデートを楽しみにしているまた子に話すのはなんとなく気がとめたのも本当だった。
「どうしたッスか?」
神楽の顔を不思議そうに見上げている。
「な、何でもないアル」
誤魔化すように神楽がそう言ったとき、コンビニのすぐ前からクラクションが鳴らされた。
「あ!晋介様ッス」
また子は、立ち上がると嬉しそうに神楽に手を振った。
「じゃあ、行ってくるッス」
「うん、楽しんでくるネ」
また子を見送ったあと、やれやれとため息をついた神楽は、再びたな卸しを再開させた。

(もうそろそろ時間……)
思って神楽が時計を見上げたその時だった。
「神楽」
呼びなれた名前を声に出した人物に、まさかと思った神楽は振り向いた。
「おお沖田っ!!」
どうしてこのタイミングに――、そう驚いている神楽。
「どうしたって、近くに寄ったから顔を見にきたんでィ」
いつもなら、嬉しくてたまらない沖田からの言葉だけれど今日だけは違う。今日と言う日を速やかにすまそうとお妙と話あったのだ。
「もう少しで、終わりだろィ」
「う、うん」
沖田ならば神楽のスケジュール形態をある程度把握していても何らおかしくはない。けれどそれが今まさに仇となろうとしている。
約束の時間は、すぐそこに迫っていた。

・・To Be Continued・・・・・



Category: 彼氏 卒業編
Published on: Fri,  20 2017 19:49
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