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彼氏 卒業編 29

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イラスト/ シロマイナスクロ yunata



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沖田の瞳に映っている神楽は、信じられないような面持ちをさせながら瞳を大きく開いていた。
そんな神楽の頭をそっと撫でると、柔らかい声を神楽に向けた。
「何て顔してんでィ」
「だ……って」
沖田の言葉を聞いても、その表情を聞いて、その手に触れても、神楽はまだその言葉を信じられないようだ。
「なんでィ、俺と一緒に住むのは嫌かィ?」
「そんな訳ないアルっ」
信じられないながらも、沖田の言葉を大きく否定するように神楽は口を開いた。
「そんな訳ないけど……」
確かに沖田はいつだってポーカーフェイスだけど、そんなそぶりは微塵もなかった。沖田のなかでどんな思いがあって、その言葉を口にしたのか……。もしかしたら、最近の自分の行動が目に余りすぎたのが原因かもしれない。そんな気持ちも神楽の中によぎった。
「私が、我儘ばかり言うからアルカ……」
だってそうとしか考えられない。いつだって沖田はまっすぐに自分を見てくれているのに、沙良の事に対して過剰に反応しては振り回す。それを包み込んでくれている優しさに、もっと甘えようとしているんじゃないかと思ってならない。
「ばーか。考えすぎでィ。ただ俺がそうしたいだけでさァ」
どうしてこんなに優しいんだろう。振り返ってみれば至らない所ばかりなのに、沖田はそんな自分を必要としてくれている。嬉しいのに、手放しで喜ぶ事が出来ない神楽に、沖田は言葉をつづける。
「本当は、前々から考えてはいたんでィ、そのタイミングが今だっただけでィ」
それは沖田の本心だった。少し前、近藤に相談したときから気持ちは半分固まっていた。神楽が寂しい思いをしているのも知っていた。でも、自分がまだ大学に在学中だと言うことも頭の隅にあったのも本当だった。それを天秤にかけては答えが出なかったけれど、口にした事で、自分の中で自然と覚悟が決まったような気がした。

「いいアルカ……本当に」
沖田の言葉を聞いて、だいぶ神楽の思いも傾いてきているけれど、あと一歩沖田からの確信が欲しいとばかりにそう言葉をなげかけた。その瞳の中には、もうほとんど不安はなく、希望に満ちていた。
そんな神楽の嬉しそうな顔をみた沖田は、それに応えるように笑顔で頷くと、温かい温もりがぎゅっと沖田を抱きしめた。



沖田から同棲すると言う言葉を聞き、確信を持てた神楽は、次の日からさっそく部屋物件を探していた。
バイト服を着ている神楽は、この時間が仕事中だと分かっているけれど、そんな事を微塵も気にするそぶりを見せない様子で、店内から物色した賃貸物件の雑誌をめくっていた。
すると、ページの上から声と影が現れた。

「何してるんスか?」
声に促されるように顔をあげると、そこにはまた子がいた。
また子は、今しがた神楽が見ていたページに目を落とした。そこには、ここら周辺の物件が並んである。その中でもめぼしいと思わしき物件には印の跡が残されている。
「引っ越すんスか?」
別に神楽が引っ越す事に関しては、なんら不思議はないけれど、また子はもう一度好奇心からか印のつけられた物件を見てみた。それは今神楽が居る部屋よりも少し広すぎる気がする。そもそも家賃も今よりも高い。神楽の懐事情をしっているまた子からしてみれば、背伸びしすぎている物件に間違いなかった。
「高くないっスか?一人で住むには」
そう疑問を投げかけると、神楽は笑みを見せながら、自信満々に口を開いた。
「一人じゃないアル」
「一人じゃないって……まさかっ?!」
一瞬頭によぎった言葉を、肯定するように神楽は嬉しそうにうなずいた。
「二人で住むアル」
「キャー‼マジっすか!」
また子は、飛び上がるようにテンションをあげた。
「ついに二人で住むっスか!羨ましい~~」
神楽の手を取り、レジカウンターごしに二人の身体はぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「沖田さんが、OKしてくれたっスか?」
「沖田から言ってくれたネ」
「良かったっスねえ。沖田さんの事見直したっスよ~」
「見直すだなんて、いつだって沖田は完璧ネ」
「あー、はいはい。分かってますよ」
興奮冷めやらぬ気持ちを落ち着けたあと、二人はもう一度賃貸物件の方へ視線を下した。
「へー、結構近場でいい部屋あるんスねえ」
「うん、私はこことか一回見てみたいネ」
「沖田さんは、なんて言ってるんスか」
「一度時間作って、一緒に物件見てまわるように予定組んでくれるらしいアル」
「いいっスねえ。私なんてそんなんまだまだっスよ」
神楽と沖田の同棲に、高杉との事を思い浮かべたのか、また子は羨ましそう目を細めた。
「最近、高杉とはどんな感じアル?いい感じアルか?」
「いい感じ……なんスかね?」

自分の事でバタバタとしていたけれど、つい先日、バレンタインだったのはまた子も同じ。手作りは失敗すると後が怖いと言っていたまた子は、無事に高杉にチョコレートを買って渡せたのだろうか?

神楽が沖田の為に一生懸命になってチョコレートを作っていたあの日、同じようにまた子は買ったチョコレートを高杉に渡すべく朝早くから、事務所に来ていた。面と向かって渡せばいいけれど、万が一にも高杉の好みのチョコレートじゃなかった時は、手もつけてくれないような気がしていた。
普段から高杉は基本超がつくほどの塩対応だ。彼女なんだからもう少し甘くしてくれればいいのにと何度思ったか分からない。けれどそんな事を何度思ったところで高杉が変わらないのは分かり切っている事であって、そんな高杉が好きなのは自分自身だ。
「どうやって、渡すっスかねえ」
一年に一回のせっかくのバレンタインだ。出来るなら甘く密な一日にしたい所だが、相手が相手なだけにそれは超難関だ。
渡した所で、一言で片づけられてしまいそうな気もするし、だからといってサプライズなどを仕掛けても無反応でかえってくる可能性も十分ありえる話。
考えれば考えるほど、ため息した出てこない。

そんなこんなしていると、高杉が出社してきてしまったので、慌ててまた子はチョコレートを隠した。
「お、おはようっス」
こんな朝早くからきていたまた子の姿を確認すると、高杉は一言「ああ」とだけ言い放つと、デスクの方へと向かった。
「コーヒー淹れるっスね」
別に頼まれてはいないけれど、淹れた珈琲は必ずなんだかんだと口をつけてくれるのは知っている。この際、渡せなかったと言う展開だけは避けたいので、コーヒーの横におまけと言う形で出せば口をつけてくれるかもしれない。
そう思っていると、事務所のチャイムがなった。相手は宅配人で、手にありあまる小さな荷物を持っている。
一体なんだと思いながらもまた子がドアを開けた。
そこには、あっと驚くほどの高杉宛てであろうラッピングされたチョコレートが渡された。
自分の事に精一杯で、予想していなかったけれど、取引先の事務所の女子社員はいつだって高杉の容姿に惚れ惚れしていたのを今更ながらに思い出してしまった。


それは、大学の沖田宛のチョコレートに十分匹敵してしまう量であり、チョコレートを見た神楽と同じような驚きぶりを見せていた。
何事かと思った高杉が様子を見に来ると、また子は後ろを振り返った。
「こ、これ、どうするっスか……?」
「捨ててこい」
冷めた視線をチョコレートの山に向けると興味なさそうにデスクへと向かっていく高杉の背中をみたあと、再びチョコレートの山に視線を向け、また子は思わずため息をついた。

「もう、どうしたらいいっスかっ」
事務所に置いておくと、ますます高杉の機嫌が悪くなる事を見越して思わずチョコレートを持って出てしまったけれど、さすがに捨てる事は良心が痛んだまた子は、袋一杯に入ったチョコレートを持ち、街を彷徨っていた。
しかもこんな後じゃ、とてもじゃないけれどチョコレートを渡せるような雰囲気じゃない。渡した所で、返されたとしてもおかしくはない。
そんなまた子の目の前に、ボランティア活動をしている炊き出しが目に留まった。両手にあまるチョコレートの行くさきに悩んでいたまた子は、それを差し出すために、足を速めた。

午後七時四十五分、今日の一日が終わろうとしている。けれどチョコレートは渡せてないままだ。
(もう、今年は諦めるしかないっスね)
食器を洗いながら、最後のため息をついた。
確かに神楽のように自分で作ったものじゃないし、値段をかければ良いってものでもないけれど、確かにそれは他の誰でもない高杉の事を思って買ったたった一つのチョコレートだった。
けれど渡してしまう事で、もっと落ち込んでしまうような事態は正直避けたい。
(来年は、もっと策を練ってあげるっス)
そう気持ちを切り替ええたまた子はチョコレートのラッピングをほどくと口に入れた。
甘くすぎず、値段の高さがうかがえる味だ。いわゆる高級チョコレートの味を堪能しているまた子の背中にふいに声がかけられた。
「おい」
呼ばれた声に思わず振り向いたまた子は、目の前に高杉が居て驚いてしまった。けれど次の瞬間、もっと彼女を驚かせてしまった。
「んぅ――っ」
口内に居れたチョコレートは、その熱で今にも溶けそうだった。けれどそれをあっと言う間に高杉の舌がからめとってしまった。
驚いたまた子の瞳はまんまるとしていて、この状況を飲み込めないでいる。
甘い感触が口内を食べつくしたあと、強引な感触はまた子の唇から、そっと離れた。
思わず、喉をゴクンと鳴らした。
唇に残ったチョコレートを親指で拭った高杉は、いつもの様に口を開いた。
「帰るぞ」


・・To Be Continued・・・・・



Category: 彼氏 卒業編
Published on: Wed,  10 2018 09:06
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