噛み付いて、また舐めて

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(えんぴつマークの英語のところです)
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無鉄砲な自分の性格を、これは真面目に考えた方がいいかもしれない……。
そんな風に神楽は思いながら、身を潜めていた……。



時刻は正午。場所、万事屋の一室――――。
いつもの雰囲気を、一人の若い女が裂いた。

「すいません!! あの! 万事屋銀ちゃんとは、ここですか? ここであっているんでしょうか?!」
かんかんと階段を上りきる音のすぐあとに、女性とは思えないような乱暴な手つきでその戸をあけ、感情にまかすように叫んだのは、まだ、二十歳前の少女だった。よほど走ってきたのか、足は擦り切れ、自分なりに綺麗に結っていた髪はボサボサに、着物は走り乱れていた。それでもその娘は、自分の姿を気にするでもなく、心臓が加速した名残をみせながらも、その場に立ち尽くし、中に居る人物達を、まるですがる様に見つめた。

「……え?」
素っ頓狂な声をあげたのは、娘の気迫におされ気味の銀時。
「どうしたんですか?! そんなに慌てて!」
一番先に娘にかけつけたのは、新八。
それをしらっと見ている沖田。
現在、万事屋にはこのメンバーが居た。

「大丈夫ですか?! お、落ち着いてください!」
「あの! あの! 助けてください!」
切羽つまった娘を前に、非道にも依頼の二文字が浮かび、銀時は目を輝かせた。
「どうしました?」
と、言ったのは、新八ではなく、紳士な声を出しながらも金に目が眩む銀時である。
「もう、銀さん! やめてください! 見え見えですよ!」
新八は銀時を手で押し退け、少女のまん前に立った。
「助けてください! 女の子が、女の子が!」
「女の子がどうしました?」
新八が、取り乱す娘から、懸命に自体を把握するため聞きだそうとしている中、沖田はといえば、我関せずといった面持ちで、新聞を広げながら、チューパットの残りすくなくなった容器を吸っていた。

「黒髪で、私と同じ年幅の女の子が、絡まれていた所助けてくださったんです! でもその所為で、今度はその人達がその娘にからんでしまって――――っ。そしたらその娘が、私の事はいいから、この万事屋銀ちゃんを探せって! そしたらきっと大丈夫だからって!」

銀時は頭を掻いた。
一体、その娘は、何をどう思いそんな事を口にしたのだろう。近頃、黒髪の若い娘が依頼に来たこともなければ、その娘を自分達は知っている記憶もない。
けれど、娘を目の前に、知らぬふりができるはずもなく……。

「――――で? それは何処に行けばいいんだ?」
銀時の言葉に、娘の表情は輝いた。
「街の外れにある、第三倉庫に連れていけと言っているのが聞こえました!」

このままいけば、おそらく銀時も、新八も家から出て行くだろう。そうなってしまえば、ほんの一月前に偶然にも重なった依頼にぶちあたり、結果協力してもらった万事屋に手土産をもってきた自分の役目も終わると沖田は腰をあげた。
そこに、何気ない新八の質問が娘にかけられた。
「その女の子の特徴を教えてくれるかな?」
はい、と力強く頷き口をあけた娘の言葉に、次の瞬間、皆、唖然となってしまった。
「アルと語尾につけた、蒼い瞳をもった、とても綺麗な方です」



「いやいやいやいや! それ違うでしょ? 絶対違うよね?」
銀時は、突っ込みをいれるが、娘はさらりと答えた。
「いえ。間違いありません」
「だって、銀さん、神楽ちゃんな訳ないでしょ?」
神楽の髪は決して黒髪ではない。先ほどまで傍観者どころか、無関係者をきめこんでいた沖田までが、その会話に入ってきた。
「何かの間違いじゃないですかィ? あんなのが、地球にもう一人いたら、破滅してしやいやすぜ? 何よりも、もし、それが本当にチャイナだとしたら、それこそおかしい事になりまさァ。仮にもあいつは――――」
夜兔だ。
言いかけた沖田が言葉を切ったのは、新八と銀時の表情が、真っ青になっていたからだった。
「銀さん、それ――――神楽ちゃんじゃないですか?」
「新八くん、それ――――多分うちの娘だと思うわ……」

二人の口から、落とされた言葉に、沖田は言葉をなくすしかなかった。








「あいつら、しつっこいアル!本当しつこいアル! あんなんじゃ、きっと女にもモテないアル。そうに違いないネ」
息を切らしながらも、毒を吐く神楽は、今、あの娘が言った、第三倉庫の中に数多くある、今は廃墟と化した部屋の一室に居た。娘が言ったように、銀時達には、実は内緒で、お妙の所にいき、街によくいる娘のようになりたいと、裾の短い着物を貸してもらい、黒髪のウィッグを貸してもらっていた。もっとも、娘の言っていた、チャームポイントの黒髪h、邪魔になりどこかに投げ捨ててしまったが。



絡まれている娘を見た神楽は、いつもの様に口と手を出そうとした。しかし今、自分の置かれている状況を確認したのか、真っ青になった。だから娘に頼んだ。神楽を拘束した男達は、いつのまにやら増えていた。
そんな中から隙をついて逃げ出したはいいが、男の人数があまりにも多く、まるで鬼ごっこのように数ある部屋を行ったり、きたりとしていた。しかしそれも限界に近かった。どうやら父である星海坊主から来た手紙によると、自分は17歳の最後の日にたった一日だけ、夜兔の力を失うというのだ。更に見ると、その一日だけは、失うどころか、そこら辺にいる娘よりも、ずっと体力が落ちてしまうという。だから、手紙には確かに、その日だけは、外出はせずに自宅に居ろとの事だった。

しかし好奇心旺盛な神楽がそんな事を我慢できるはずもなかった。
夜兔の力の事で一番、悩んでいるのは、他の誰でもない自分だった。壊したくないものを、思ってなくても壊してしまう。触りたくても、恐くて触れなかったものだって沢山ある。

だからこそ、この一生で一度のこの日を、普通の女の子として生きてみたかった。

そう思った自分の心に、後悔はしていない。
ただ、無鉄砲につっこんだ自分には、ただただ脱力するしかなかった。



走り回るせいか、神楽の体力は、確実に減っていた。
実のところ、もうほとんど走れない。けれど捕まるわけにはいかなかった。この非力な自分では、、次に捕まっては逃げ出せない事も、ちゃんと分かっているようだった。考えるのは、頼んだあの娘の事。聞いていれば、きっと銀時は駆けつけてくれているはず。
ただ、自分の名を名乗るのを忘れてしまった。銀時が儲からないと判断した場合、腰をあげるのに、きっと時間がかかってしまう。本当に賭けだった。

その間も、確実に神楽の息は上がる。
既に、肩で息をする様になっていた。
「もう……っ、本当に最悪アル!」
部屋の中に、じっと隠れていればいいと思うが、男達は交互にやってきては、部屋の中をくまなく探す。その隙をついてはまた走り、違う部屋へと……。そんな事をくりかえしていれば、息があがるのは当然だった。

「いたぞ!!!」
叫ぶ男達の声が聞こえた。
(もう……動けないヨ……)
神楽は廊下で足を膝を付いた。手を地面につけ、息を吐く、そして吸う。
もう動けそうになかった。鼓動は、かつて経験したこともない程、激しく鳴っている。遠くから走る男達の足音が、どんどんと自分に近くなる。
(もう駄目アル)
体の全ての力を失った。
その神楽の体が、うつ伏せになった形のまま、ふたつ折にふわりと浮いた。

何ごとだと上を見上げた神楽は、言葉を失った。
(沖田―――っ)
驚いた神楽を沖田は部屋の中に一度突っ込み、素早く其処を閉めた。表情も見えなく、声も聞いていない。それでも沖田だと分かった。
(何で? 何であいつがここに居るアル!?)
神楽はただただ、驚きにかられていた。


すると、まもなく閉められたドアの向こう側から、沖田ではない男の呻き声が響いた。
その音に、ドア越しに耳をすませていると、ガラリとドアが開かれた。息を吸い込んだまましばらく止まっていた神楽だったが、ゆっくりと上を見上げた。

沖田は何も言わず、神楽の肩の下に手をいれ、ひきあげた。
「ちょ、ちょっと……何でお前アルか? 私は銀ちゃんにって――――」
言いかけた言葉は、沖田の冷ややかな視線にとめられた。

「ほら、いくぞ」
それだけ言うと、沖田は神楽の腕を掴んだまま歩きだした。
(い、意味が分からないアル……)

引きずられるように歩きながら、神楽は困惑を隠せないでいた。
自分は確かにこの、目の前の男なんかではなく、断じてなく、身内への助けを求めたはずなのだ。
なのに何故、この男はこんな所にいるのだろう。しかも、目の前の男の視線や態度は、決して助けにきたものの態度ではなかった。
神楽はハッとした。信じたくはないが、いや、実はありそうだが、銀時らが、この男に更に依頼したのか?
ありえなさそうで、ありえる。銀髪のくるくる天パーは、そんな奴だと神楽は思い、頭をクラクラとさせた。

知らず知らずの間に、神楽の顔は、引きつっていた。銀時に無理を言われれば、何だかんだといいながらもこの男は聞いてしまうだろう。だって、見て欲しい。この男の態度。嫌々だと、表面に出てきてしまっている。

気が付くと、神楽の足は止まっていた。

「だ、大丈夫アル」
神楽の足が止まった事を、沖田はイライラとしながら振りかえった。
「何がだ?」
「だから、もう大丈夫アル」
「どのへんが? どうやったら、さっきのオメーの状況が大丈夫なのか、分かるように今ここで説明してみろィ」
冷たい沖田の態度が神楽に突き刺さる。
思わず神楽は黙ってしまった。

ここの所、自分は変なのだ。
どうもこの男をみると、ちくちくと胸が鳴る。
そういう風な事を、何というか、既に自分は知っているのだが、まだ、ありえないと否定する気持ちもあって……。唇を噛んだ。

沖田は、面倒そうに舌を鳴らすと、神楽の言葉を待たずに、再び手を取って歩きだした。
しかしすぐに神楽は足を踏ん張る。

「いってェ、何なんでィ!」
張った沖田の声に、神楽は一瞬顎をひき小さくなった。しかしすぐに負け気の強さで口を開いた。

「大体お前のその態度が――――っ!」
「居たぞ!!!」

振り返ってみれば、沖田と神楽の声を聞きつけた男達が見えた。
神楽は慌てた。それと同時、沖田は神楽の手を強く引いた。
「行くぜ!」
沖田にひっぱられるがままに走りだした神楽だったが、すぐに体力を失った。一気に速度は落ち、神楽の口からは聞いた事もないような激しい息が漏れた――――。

神楽は沖田から、手をふりほどいた。
「行って――――っ、いいからお前は行くアル――――」
ほんの言葉数個出すのにも、神楽はキツそうだった。その合間にも、男達は迫ってきている。

次の瞬間の沖田の行動は、何ひとつ迷いがなかった。
スッと身を屈めると、神楽の膝の下に手を滑り込ませ、あっというまに軽々と神楽を抱き上げた。驚いた神楽だったが、正直心臓が破裂してしまいそうなほどキツイ。大きく喉を鳴らし、身を任せるしかなかった。
しかしその心臓の音は、何も走っただけの所為ではないらしい。きゅっと唇を結んだ神楽の顔は、こんな場面であるにも関わらず、淡く色に染まっていた。

神楽を抱き上げたまま、沖田は揚々と走る。
手のやりばに困った神楽は、沖田の首に自身の手を絡ますしかなかった。それでも顔は下げたまま、沖田に抱かれたまま、上に上にと階を登り、また部屋の中に素早く身を隠した。

そっと閉められた先には、密室の部屋。沖田はそっと神楽を下ろした。
「ここで待ってろ」
それだけ言うと、スッと立ち上がった。反射的に沖田の隊服の裾を掴んだのは、神楽だった。すぐに自分の行動に驚くと、パッと手を離した。が、すぐにまたおずおずと掴んだ。

柄にもなく、側にいて、なんて言ったら、きっと沖田は鼻で笑うだろう。それでもそう思ってしまうのだから仕方がなかった。父の言葉に背いた事に、今更後悔してもおそい。
走ってみて、逃げてみて、自分の非力さに言葉をなくしている。そして沖田の頼りがいがある部分に触れてしまった以上、そして、その男に、気持ちを寄せている事を認めてしまった以上、女の部分が出てしまうのは仕方がなかった。

正直、神楽の中では屈辱だった。
自分はこんなに弱くない。そう思うプライドとのジレンマに押しつぶされそうになる。
しかし今、この場面で、自分の気持ちは、痛いほど正直だった。

「そ、そ、側――――っ」
言えるわけがない。今までの自分のキャラを考えてみろ。神楽はぎりぎりと歯鳴らした。しかしドアの向こう側から聞こえる男達の声に、気持ちは正直だった。まるで隠れるように身を小さくさせる。



「――――反省はしてるみてぇだな」
ぼそりと沖田の声が聞こえた。
神楽は何も言わずに沖田の方に顔をあげた。
「待ってろィ。すぐに片つけてきまさァ」
静かにいうと、沖田はドアに手をかける。しかし神楽が引いている所為で前に進めない。沖田はそっと神楽の頭の上に手をやった。
「すぐに戻ってくらァ」
思いがけないほど、沖田の声は柔らかかった。神楽は俯いたまま、そっと手を離すと、コクリと頷いた。

沖田は、宣言どうり、両手にあまるほどの男を、さっさと気絶させると、静かに神楽の元へと戻ってきた。
「これから下に降りようと思いまさァ。お前はここで静かに待ってろ」
神楽は、思い切り首を振った。
「い、嫌アル!」
自分からこんなにも汐らしい言葉が出てくるとは思ってもみなかった。そしてそれは沖田もだったらしく、少々驚いたように神楽を見た。
「私も一緒に!」
「駄目だ。危険すぎる上、今のオメーは足でまとい以外の何ものでもねェ。俺が下で引きつけながら、全部ぶった切ってくる。ここに居るほうが、全て上手くいくと思いまさァ」
足手まとい。
分かっていたが、神楽はショックだった。
人間になれば、もっと自分は可愛らしくいられただろうか、なんて考えた事はある。けれど沖田に足手まといと言われた事に、神楽は何も言えなくなっていた。

「分かった……アル」

神楽の手が離れると、沖田は立ち上がり、そっと外へと出た。沖田が走る音が遠ざかると、神楽の目には、涙が浮かびあがっていた。
(どっちにしたって……見込みなんかないアル――――っ)
ずずっと鼻をすする音が響く。

明日になれば、自分は本来の夜兔に戻る。怪力だってまた出てきてしまうだろうし、足手まといになる事はないけれど、きっとまた可愛くない自分になってしまう。ちょっとくらい、ひ弱な女で居たかったと、はじめて気付いた。普通に守られたかった。だから、困惑しつつも沖田が来てくれて、嬉しかった。抱かかえられると、普通の女の子みたいで、明日からは絶対にありえない光景だと分かっているからこそ、嬉しかった。

なのに、夜兔じゃなければ、自分はたんなる足でまといにしかならない――――。

刹那、凄まじい音をさせドアが開けられた。
ひゅっと息を飲み込んだ神楽は、驚きと恐怖で体をきゅっと固くさせた。

しかし目の前に入ってきたのは、想像した人物達とは違っていた。
面倒そうに男は舌を鳴らした。

「やっぱり泣いてやがる。――テメーがらしくもなく、そんなんだから、こっちにちっとも身が入らねぇじゃねーか!」
頬から流れ落ちる涙が、そっと神楽の膝に落ちた。
「ほら」
沖田は神楽に手を差し伸べた。
「え……」
「――――え、じゃねェ。行くんだろうが」
沖田は無理やり神楽を立たせた。
「で、でも足でまといになるって……」
「その方が危険がないんだが、そんなすがる様な瞳で見つめてくると、放ってはおけねぇだろィ」
「でも……」
「でもじゃねェ!」

ひょいと沖田は神楽を抱き上げる。
「守ってやるって言ってんでェ。大人しくオメーは守られてりゃいいんでさァ」
わっとなった神楽の表情を見た沖田は、ふてぶてしく声を出す。
「首!」
「え? 何アルか?」
「ちゃんとつかまってねぇと、振り落としちまうだろうが」
「あ……分かったアル……」
そっと神楽は首に手を回すと、ピタリと沖田の胸板に身を寄せた。どうしようもない痛みと嬉しさが心臓を刺激する。思わずにやけてしまいそうな自分の顔を隠したくても両手は塞がったまま。だから沖田の胸板に、額をぐりぐりと擦りつけながら誤魔化した。一体なんだと思った沖田だったが、ふわりと香る神楽の匂いに、建前や前提が、ぐらぐらと崩れそうになってしまった。

沖田は静かに喉を鳴らした。更に落ちてきた彼女からの言葉に、足場がなくなっていくのを感じた。
「お前となら、きっと地獄で迷っても、恐くなんかないアル……」









全ての事が片をつけるのは、そう時間のかからない事だった。
自身の腕に抱いた神楽を安全な場所に下ろしつつ、下へ下へと沖田は降りていった。本当は、沖田がそうして来たように、窓から逃げようかとも思ったが、今の神楽にはリスクが高いとふんだ。

下の階に降りた頃には、散らばった所為で男達の数も減っており、沖田は瞬殺のごとく、男達を気絶させた。

そして、土方の携帯に電話し終えた後、キョロキョロと辺りを見渡すと、丁度入り口の所に神楽がしゃがみこんでいるのが見えた。
神楽は沖田の姿が見えると、すくっと立ちあがった。
「今日は……迷惑をかけて……ごめんアル」
言い終えたあと、神楽はすぐに180度回転し、沖田から逃げるように背を向けた。
「待て待て」
その手を掴み、沖田は神楽を引きとめた。
「また帰りも同じような事が起こるかもしれねーだろうが、テメーは油断ならねぇから、責任とって送っていきまさァ」
「も、もうそんな馬鹿みたいな真似しないアル!」
神楽が言っても、沖田は全く聞くそぶりをみせない。仕方なく神楽は手を引かれるまま、歩き出した。

「しかしまァ、本当に夜兔の力っつーのはなくなっちまったのかよ」
「そうみたいアル……今日の零時まで」
「ふーん」
沖田はしげしげと神楽の腕を見つめる。
「細っせー腕」
褒められているのか、けなされているのか? 神楽は黙ったまま顔をむすっとさせた。

刹那、沖田はぐいっと神楽の体を引き寄せた。
思い切り慌てた神楽は、わたわたと慌てながらも沖田から逃げようと身をよじった。
「離っ! お前なにやってるアルか――――っ!」
上を見上げると、沖田の顔がすぐ近くにある。嫌でも意識した。
「おーおー。本当でさァ。そこら辺の女子供よりも力ねぇじゃねーか」
「離せ!」
神楽の力は、到底沖田には敵わない。
神楽の長くなった、柔らかい桃色の髪がなびく。

沖田に少々イタズラ心が沸いた。
「じゃあ、こんな事しようが、今のオメーじゃどうもできねぇーだろィ?」
沖田は、更に神楽を引き寄せると、ほんの軽く、当たるかあたらないかで唇を触れさせた。


神楽は絶句した。
まだ、状況についていけないらしく、目をぱちくりとさせたままだ。
本当は、もっと怒り狂ってくるかと沖田は思っていた。しかし、その予想外の態度に、沖田は面食らった。

触れた場所が熱い。
ほんの遊び心でした行為だったが、その代償は、それまでの関係を壊すのに十分だった。

「――――何でしたアルか?」
そっと唇に触れる神楽を目の前に、遊びだ、なんて言える状況でもなく、本音が出てしまった。
「したかったから、したんでィ」

沖田の位置から、俯く神楽の表情は見えない。
だらんと力をなくした神楽の手を解放させる。
「――――そう……アルか……」
ぼそりと言った神楽は、そのまま、沖田に何も言わず、背を向け、ゆっくりと歩き出した。

(――――そうだけど、違ぇ――――っ)
言葉が上手く見つからない沖田は、髪の毛をくしゃりと掴んだ。
このまま神楽を行かせてもいいのか? どうせ、壊れた関係なのだ。だったらそれを利用してやればいい。

思うが早く、沖田は神楽を掴んでいた。
ピタリと止まった神楽の足……。

「ファースト……キスだったアル……」
今にも泣き出しそうなその声は、沖田に罪悪感をもたらした。けれどもうどうしよもなかった。そしてもう、言い訳するつもりもなかった。自分の中で、神楽を欲した気持ちは、もう隠せなかった。

「俺は――――」
「本当は……もっとロマンティックにって……ずっと思ってたのに……」

神楽の声を聞いた沖田は、気が付くと、神楽の手を強く引き、いくつかある建物の壁に押し付けていた。
いつ? 誰と? どこで? 冗談じゃなかった。
神楽の顎を掴むと、沖田は先ほどより、強く唇を重ねた。驚いた神楽は、沖田の胸板をどんどんと押した。しかし普段、神楽が本気になったところで、沖田に敵うはずもないのに、今の神楽がかなうはずもなかった。

沖田は、神楽の短い着物の間に足を滑り込ませると、動けないように押さえつける。

呼吸の仕方も分からない神楽は、すぐに酸欠になる。それを感じた沖田は、一度離した。酸素を欲する神楽は全身で息をする。しかしまた塞がれた。そしていきなり入ってきた生暖かい舌に、神楽は声にならない声をあげた。苦しげな神楽の声を聞くと、沖田はまた離す。しかしそれもすぐに塞がれる。

絡ませてくる舌を、もう意味も分からないまま神楽は応えていた。
それに沖田もすぐに気付いたのか、神楽を抱くその力は、増して強くなった。
離れては、左から、離れては今度は右から……。

それから一時。
二人が離れると、つぅっと糸がひいた。
二人はそれを自然に拭う。

「俺は……ロマンだか何だかしらねぇ。そんなもんとは、程遠い男でさァ」
神楽は紅潮した肌で沖田を見つめる。そのほんの先には、荒く呼吸をする沖田の視線がある。ロマンティックだなんだと言った自分が、こんなにも胸をドキドキとさせている。

沖田は、もう一度神楽の唇に、今度は指先で触れ、なぞった。そして神楽の姿を今一度見下ろした。
走った所為で、乱れた胸元に、柔らか太股……。
「オメーに触れた奴は、俺が殺す」
ぎょっとしつつも、神楽はどんどんと胸を高鳴らせていく。

「それは……」
言いかけた神楽の言葉を、沖田は掻き消すように、また重ねた。
今度は、とても柔らかく、それでいて厭らしいほど甘く。

自分の表情や鼻からでる声が、驚くほどうっとりしたものに変わっていく現実に、落ちてしまったと神楽は感じた。













「銀さん。本当に沖田さんに行かせてよかったんですか~?」
何事もなかったかの様に洗濯を畳みながら、新八は側で新聞を読みふけっている銀時に声を投げかけた。
「仕方ねぇじゃねーか。あんなの見ちまったら、ちびっちまうよ? 銀さん」

大袈裟に震えた銀時の隣で、新八はため息をついた。

あの娘の話が、神楽だと分かると、沖田は銀時につめより、全てをちゃんと分かるように説明しろと言った。

今日の神楽の状態。
そして、どうせお妙の所にでもいって、遊び心でウィッグをつけている事。
沖田は、その娘にまで詰め寄ると、いきなり出て行ってしまったのだった。
「あんなに分かりやすいのに……なんであの二人はあーなのかねェ? 銀さん不思議で仕方ねーわ」
神楽も、もう18歳になる。沖田といえば、とっくに青年だ。周りから見れば分かる二人の微妙な関係に、今更野暮な事を言うつもりもない。

「なるように、なるんですかねぇ……」
遠くを見つめる新八の表情は、全ての結末が分かっているかのように、そしてそれは、沖田と神楽の性格からして、決して柔らかいものではないだろうがと、ただただため息が出ていた。







「お前……いつもこんな事しながら、女をひっかけてるアルか?」
「オメーこそ、いつもこんな風に男を誘ってやがんのかよ」

鼻先くっつく距離からのささやかな嫉妬心。

「今日から、私だけにするアル」
「そりゃこっちの台詞でさァ。浮気したら犯り殺してやる」

口から出て来た沖田の言葉は、物騒極まりないハズなのに、落ちてくるその柔らかい感触は、どこまでも神楽に優しかった。




FIN
Category: 噛み付いて、また舐めて
Published on: Thu,  03 2011 21:51
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8 Comments

つむぎ  

ツンデレさんっっっ!!!

今回のお話読ませていただきましたっ!!!!

もう、ホントによかったです!!

ああ、いいなあ
神楽ちゃんは。。  自分の身に何かあったときすぐに助けに来てくれる・・・   そんな人がいるなんて・・・   うらやましい~


これからも頑張ってください!!!!!!!         つむぎ

2011/11/14 (Mon) 20:00 | REPLY |   

ゆー  

流石すぎますぅ!

沖田さんに守られる神楽はまた新鮮でよかったです!

そしてなんといっても中盤から後半にかけての急展開っ、ありがとうございます❤
もっとラブラブしてればいいよ、、ぐふふふw

気づいたらこんなに読んでたのか!ってかんじで
空白があるたびもう終わっちゃうのってびくびくしてました(笑)

忙しいとは思いますが応援してます☆

2011/11/14 (Mon) 21:56 | REPLY |   
ツンデレ→つむぎさんへ">

ツンデレ→つむぎさんへ  

Re: タイトルなし

ツンデレ→つむぎさんへ">

いや~。
私も、創作しながら、本当にニヤけていたと思う(笑)

沖田が嫉妬むき出しにする所とか、神楽を助けにきた所とか、
想像しただけで、私一人さきに悶えていましたww

沖田の嫉妬は創作してても本当に楽しい。
今度は神楽の嫉妬全快も創作したいなぁと思う。

それを考えるだけでワクワクして止まらないのですw

2012/01/09 (Mon) 01:48 | ツンデレ→つむぎさんへさん">REPLY |   
ツンデレ→ゆうちゃんへ">

ツンデレ→ゆうちゃんへ  

Re: タイトルなし

ツンデレ→ゆうちゃんへ">

えへへ~^^

ゆうちゃんこんばんわぁ ♪
遅くなってごめんね。

今年はね、去年より、もう少し更新できる様に頑張るね ☆

新作とかも創作してて(あくまで脳内で)
はやく新作とかもアップしたいなと思ってるこの頃なのです。

どれが一番先にハッピーエンドを迎えるだろう……。

そんな中に短編何か投下しちゃって、もう本当にゴメンネ !
でも、楽しんでもらえて本当に嬉しい!

今年も頑張るから、よろしくね ^^

2012/01/18 (Wed) 22:38 | ツンデレ→ゆうちゃんへさん">REPLY |   

ツン子  

初めまして!ツン子と申します!
ピクシブの方でツンデレさんの作品読ませて頂いてたんですがこちらの方にもお邪魔させていただきました!!
そして嫉妬沖田くんごちそうさまでした。
夜兎の力のなくなった神楽ちゃんかわいかったです!
沖田くんがたじたじなのも読んでて美味しかったです
素敵な小説をいつもありがとうございます

2014/06/03 (Tue) 18:50 | REPLY |   

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

2014/06/04 (Wed) 21:11 | REPLY |   
ツンデレ→ツン子様へ">

ツンデレ→ツン子様へ  

Re: タイトルなし

ツンデレ→ツン子様へ">

は、はじめまして!! ツン子様。ツンデレと申します !

ピクシブの方から飛んできてくれたとしり、
色んな所で、見ていてくれてるんだと、嬉しかったです★
現在、中々ピクシブの方に、追いついていないのですが、どこの読者様にも楽しんでもらえるよう、
更新、頑張りますね ★

この小説のお話は、私が突拍子もなく、思いつきで、殴り書きして
足していき、最後いっきに書き上げたのですが、当時、自分でも
とても楽しかったのを、覚えています。
うちの宅の神楽ちゃんは、王道ツンデレですが、沖田君も、創作していて
なんと、カッコいいんだ! と、私も萌えてます 笑
これからも、がんばりますので、また、ぜひ、声聞かせてください ★

2014/06/06 (Fri) 07:34 | ツンデレ→ツン子様へさん">REPLY |   
ツンデレ→メガネ子様へ">

ツンデレ→メガネ子様へ  

Re: 覚えてますか?

ツンデレ→メガネ子様へ">


おはようございます! メガネ子様。
もちろん、覚えていますヨ ♪ 
沢山、このブログで、小説を創作していますが、ここ何年たって、
一番、人気は、彼氏ですね !私も、当初書き始めたとき、ストーリーがあれだったんで、
大丈夫かと、毎日不安でしたが、ここまで、反響が強いとは、想像もしませんでした 笑

ブログの一番を争うのは、この彼氏か、隣のあいつですね ♪
ピクシブの方では、隣のあいつが、ダントツぶっちぎっています ★
色々な、作品を、これからも創作していく予定なので、宜しくお願いします !

2014/06/06 (Fri) 07:39 | ツンデレ→メガネ子様へさん">REPLY |   

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